「食べる力を育てる」現在の食育事情と未来への食育実践【食育コラム】

~未来へつなげる食育の現在と家庭でできること~


食育」という言葉が広く知られるようになってから、ずいぶん経ちます。

たとえば、子どもの学校や教育の現場、病院や保健センターでの栄養相談の機会。あるいは、行政や地域活動によるキャンペーンのポスターや、企業・支援団体の広告などでこの言葉に触れたという方も少なくないかもしれません。

政府の関係省庁で食育の定義や重要性が発信され、全国の自治体、公共団体、医療分野、学校、企業など様々な機関や団体が食育に取り組んでいます。また、食育を推進されてきた先生方や料理家の皆様、各家庭での実践が、今の日本の食育につながっています。

特にここ数年は、家庭や子育ての場で、この「食育」という言葉が意識されることもますます増えてきました。

食べることは、生きること。

一日に3回ある食事の機会は、むしろ家庭でこそ関わりの深いものなので自ずと関心も高まります。
一方で、この「食育」という言葉を耳にすることはあっても、実際にはどのようなことを意味し、どのような目的や背景をもったものなのか、よくわからないという方もいらっしゃるかもしれません。

そこで今回は、近年注目されているこの「食育」について、それが生まれた背景や現在の取り組み、そして家庭でもできるさまざまなアイデアを、食ZENラボや多方面で活躍されている料理・食文化研究家の庭乃桃さんとともにご紹介したいと思います。よろしくお願いいたします。

庭乃 桃(にわの・もも)

料理・食文化研究家 / 女子栄養大学 食生活指導士。
東京大学大学院博士課程でヨーロッパ地域の歴史・文化を専攻。現地への留学を機に数年をヨーロッパで過ごすなか、生活のベースとしての「食」の大切さを改めて感じて食の道へ。その土地ごとの暮らし・風土からうまれる料理や食のありかたを学ぶ。現在は料理家として企業向けレシピの開発やスタイリング・撮影を手がけるほか、食に関する書籍・コラムの執筆や、翻訳、講演など多方面で活動中。

皆さま、こんにちは。庭乃桃です。いつも食ZENラボ様のコンテンツをご覧いただきありがとうございます。
今回は、食育をテーマに「食育の始まり・食育基本法」や「食育推進現場の取り組み」、そして「家庭でできる食育」をお伝えしていきたいと思います。
「食育」は、実は子どもだけでなく、大人にとってもとても大切なもの。まずは気軽に、楽しんでできることから一緒に始めてみませんか?


 食育の「始まり」・食育基本法

日本で「食育」という言葉がここまで大々的に知られるようになったのは、2005年に制定された「食育基本法」がきっかけです

現代の食生活には、実にさまざまな問題があるとされています。たとえば、生活習慣病の増加や、孤食(一人での孤独な食事が続くことで、栄養の偏りや、コミュニケーション不足など、心身の健康に悪影響を与えるような状態を招くこと)の問題、過度の肥満や極端な痩身志向、食の安全問題や海外への依存、伝統的文化の喪失などがその一端です。そしてそんな現状を受けてうまれたのが、この食育基本法でした。

「子どもたちが豊かな人間性をはぐくみ、生きる力を身に付けていくためには、何よりも『食』が重要である。今、改めて、食育を、生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきものと位置付けるとともに、様々な経験を通じて『食』に関する知識と『食』を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる食育を推進することが求められている。」
■食育基本法(最終改正:平成二七年九月一一日法律第六六号)前文より抜粋

このように、つまり食育とは、単に子どもたちの食事の栄養面だけを気にかけるものではありません。その重点は、食に関する知識を身につけ、食を自ら選択する力を習得することで、健全な食生活を実践できる人間を育てることにあります。

食育基本法が謳っているように、食とは、「生きる上での基本」です。そのため食育も、本来は世代を問わず、大切にされるべきものであると言えます。

子ども時代の食生活は、大人になってからの食事の仕方や体質にも影響を与えると言われるとても重要なものです。この時期に「食」そのものへの関心を高め、さまざまな食体験を重ねることは、長い人生を生きていく上でのとても大切なベースとなります。

目の前の食卓がどのように用意されたものなのか、どのような食材が使われ、どんな見た目でどんな味つけがされているのか。そしてその料理を、大切な家族や友人と共に味わい楽しむ時間、どんな会話を交わしてどんな気持ちになれたのか。それを思うと、「食べる」という行為は、五感をフルに使った素晴らしい学びの機会となりうることがわかります。

このようにして「子どもたちが豊かな人間性をはぐくみ、生きる力を身に付けていく」こと、それこそが、本当の意味での「食べる力」、現代における食育の意義なのです。

生涯にわたって大切にしていきたい食育の全体像を現した『食育の環』

出典:農林水産省ウェブサイト
 食育推進現場の取り組み ~未来への食育、実践例~

一日3回の食事の時間。しかし今の時代、食の選択肢がこれほど増えているにもかかわらず、目の前にある料理や食材が、どこからどのように食卓にやってきたのか――。その背景を感じとることは、案外むずかしくなっているのかもしれません。

忙しい日々のなかでは、大人はもちろん、これからの未来を担う子どもたちも、意識的にでないと食本来の喜びや意義、ありがたみ、楽しみを味わうことができないこともあります。

そこで、国や各自治体は、食育基本法を計画的に実践する上で必要となる基本事項をまとめた「食育推進基本計画(第4次)」をもとに、さまざまな食育の取り組みをおこなっています。

特に、小学校などで提供されている学校給食は、一日のうちの約1/3の栄養素が摂取できるよう献立が組まれている一方で、行事食や世界の食文化にちなんだメニューを取り入れたり、地域の食材を利用するなど、「食」そのものへの関心を高める貴重な食育の機会としても活用されています。

食育ピクトグラムに関して

農林水産省では、食育について取り組みをわかりやすく発信できるよう、絵文字で表現した食育ピクトグラムを公開しています。

食育に関する取り組みの代表的なものを分かりやすく抽象化した「食育ピクトグラム」

出典:農林水産省ウェブサイト

食育ピクトグラムに関しては、以下の記事も公開していますので、ご参考いただければと思います。皆様も食育活動の取り組みを食育ピクトグラムとともに発信していきませんか♪

 家庭でできる食育 ~「おいしいね」から始まる未来~
1.親子で食事時間を楽しむ

子どもにとって、大好きな家族と囲む食卓はかけがえのないものです。目の前にある料理について交わす会話や、五感を使った食の楽しみ、初めて食べる料理に対する発見、今日あったできごとなど、話題はなんでもかまいません。空腹を満たす、という身体的な安らぎに、大切な人との楽しい時間がもたらす心の安らぎ。それが加わった時、毎日の食事は何より貴重な食体験へとつながっていきます。

その意味でも、日々の料理に季節感を取り入れることは、食卓での話題づくりにも大いに役立ちます。現在では、本来は旬のある食材も、年間を通して店頭に並んでいることが少なくありません。ともすれば食卓の季節感がやや希薄になりがちななかで、その時期にしか食べられない旬ならではの美味しさを味わうことは、生命のはかなさ、尊さに触れることでもあるのです。

けれどだからといって、家庭での食事づくりに気負いすぎる必要もありません。食事づくりが大変なあまりに、親自身が体調を崩してしまっては食事を楽しむ余裕もなくなります。

手間のかからない簡単おかずのレシピを活用したり、時には惣菜や外食、テイクアウトなどを利用するのもいいでしょう。
栄養面や好き嫌いなども気になるところではありますが、多感な子どもたちは、どんなに嫌いな食材でもお友だちが美味しそうに食べているだけで驚くほど興味を持つことがあります。
また、家庭ではあまり口にしない料理でも、学校給食で出されたことをきっかけに慣れ親しむ場合もあります。外食やテイクアウトで使われている旬の食材に興味をひかれることもあるかもしれません。

このように、食育のチャンスは、日々さまざまな所に広がっています。まずは何より、お父さん、お母さんが、ご自身の体もいたわりながら、毎日の食事を美味しそうに食べている、そんなくつろいだ楽しい時間を持つことこそが何よりの食育につながっていくのです。

2.食材に親しむ機会を増やす

そんななかで、もし家庭でもできることがあるとしたら、やはりさまざまな食材に触れる機会を増やしてあげるといいかもしれません。
一緒に調理をするだけでなく、たとえば、買い物に行って野菜を子どもにえらんでもらう、今の時期、売り場にはどんな魚が並んでいるのかを眺めて名前の当てっこをする、お肉は焼くのと揚げるのと茹でるの、どの食感が好きかを聞いてみる、なども立派な食育になります。

また、最近では、家庭で手軽にできる「リボベジ」なども人気です。リボベジとはリボーンベジタブルの略で「再生栽培できる野菜」のことです。

【リボベジ】豆腐や野菜の空きパックなどを使えば簡単。
Photo by Niwano Momo

よく知られている豆苗はもちろん、小松菜やネギの根元や、大根、ニンジン、カブなどのヘタを切り取っておき、水や土(室内ならバーミキュライトなどもおすすめ)に刺しておくと、やがて新しい葉が伸びてきます。フードロスや節約につながるだけでなく、青々とした葉が日々少しずつ伸びてゆくのは見ていてとても楽しいものです。ある程度の量になって収穫までできると、ちょっとした達成感もあります。ほかにも、水や光をあげないと元気に育たないこと、野菜ごとに葉の形や色がまったく違うことなど、学べることは実にたくさんあります。

たとえばそんな身近なところからも、子どもたちの好奇心は刺激され、食べる意欲へとつながっていくかもしれません。

食育は、日々の小さな積み重ね。ぜひ皆さんも、季節の移ろいを五感で感じながら、まずはご自身がおいしく楽しく食べることから始めてみてください。

いつもよりも、ほんの少しだけゆとりのあるそんな時間。子どもたちはきっと、そこから多くのことを学び、自分だけのかけがえのない「食べる力」をつかみ取ってくれるはずです。


【主要参考文献】
・日本食育学会編『食育の百科事典』丸善出版、2023年
・新村洋史『世界の学校給食・食育の歴史』績文堂出版、2024年
・総務省HP「食育基本法成立の背景」
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000326155.pdf
・食育基本法(平成27年9月11日最終改正)
 https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/attach/pdf/kannrennhou-20.pdf
・その他、農林水産省はじめ、関係各省庁のウェブサイトを参照
 リンク一覧:https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/link.html

食育とは、さまざまな経験を通じて「食べ物・食べることに関する知識」「食べ物を選ぶ力」を身につけ、「健全な食生活を実践できる力を育むこと」

食べること=生きること。子どもから大人まですべての世代で、食育に取り組むことが重要となります。食ZENラボも、皆様の食育にお役に立てるよう、生活の豊かさに貢献できるよう活動をつづけて参ります♪

 その他コラム、活動ご紹介

庭乃桃さん、ありがとうございました!
食に関する知識や食生活の豊かさにつながる庭乃桃さん執筆の他のコラムも多数公開中です。ぜひ、ご覧ください。

コラム名:忙しい毎日の献立に野菜を盛り込むコツと工夫~おすすめ調理・レシピ紹介~

コラム名:春色で飾るテーブル・食卓のつくり方~季節を楽しむ食卓の工夫とレシピ~


また、インフィニティラボでは、農林水産省の全国食育推進ネットワーク『みんなの食育』や沖縄県が推進する『チャーガンジューおきなわ応援団』の活動にも参画しております。微力ではありますが、食育活動ならびに健康的な食生活に貢献できるよう引き続き尽力して参ります。

コラム名:和食を支える伝統野菜(ふるさと野菜)の紹介と二十四節気の日本食文化

 インフィニティラボの食プロモーションサービス
食プロモーションサービス

食品メーカー様や生産家様にとって、家庭での調理法や食べ方を消費者様向けに提案・発信することは、大切な取り組みの一つです。インフィニティラボでは、連携する専門家の方々と食材や商品の魅力を最大限に引き出すオリジナルのレシピ開発からコラム・動画などのコンテンツ制作、イベント企画・運営、SNS運用サポート、広告・PRサービスまで様々な食プロモーションをワンストップでご支援させていただきます。

より詳細をご覧になりたい方は、以下のページもご覧ください。

食ZEN コ-co-ラボ

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