沖縄伝統工芸品・琉球漆器の特徴と魅力~東道盆と琉球料理のおもてなし~

日本には、陶磁器や漆器、織物など日本を象徴する『伝統的工芸品』として、現在240品目が指定されています。(経済産業省指定・2022年11月時点)
中でも沖縄県の伝統工芸品は16品目と、東京や京都に次ぐ指定数となっており、琉球びんがた三線芭蕉布宮古上布首里織ミンサー壺屋焼(やちむん)琉球漆器など独自文化が育んだ工芸品が多くの方を魅了しています。
今回は、沖縄伝統工芸品の琉球漆器の特徴と魅力、そして、琉球料理にかかせない東道盆(トゥンダーブン)について、紹介していきたいと思います。

琉球漆器』とは、沖縄が独自の国だった琉球王国時代から伝わる伝統工芸品のひとつです。

琉球漆器は、<漆塗りの丸いお皿>をイメージする方が多いと思いますが、器だけでなく、お弁当箱や漆で塗られ模様が描かれた机など、様々なものがあります。

その素晴らしさに魅了されたのは、琉球王国時代の展覧会へ行った際です。当時、王族が使用されていた足つきの盆や、他国への贈り物などたくさんの作品が展示されていました。現代とは違い、14世紀にはネットも機械もない環境下でつくられていたもの。昔の作品なのに、色あせず、どれも工夫され細かく描かれた模様や、デザインの美しさは、職人技といえるものばかり。
特に、印象だったのは黒い漆に龍が描かれ、夜光貝がちりばめられていた作品。まるで時間が止まったかと思うほど、とてもきれいなデザインで今でも目に焼き付いています。

このように、500年以上前から現代へと受け継がれている琉球漆器。
次世代に伝えたい!歴史背景からみえてきた琉球漆器の魅力をご紹介します。

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©Okinawa Convention&Visitors Bureau
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 他国にはない!?琉球漆器3つの特徴
 1.鮮やかな光沢さ

漆は高温多湿の環境下で艶がでる特徴があります。琉球(沖縄)は亜熱帯地方で、突然の雨も多く1年の半年以上が夏日。重みのある光沢や艶出しには、とてもよい環境ですね。

 2.軽くて丈夫な素材

漆器の材料となるのは、ガジュマル・ディゴ・シタマキなど。どれも沖縄にある南国植物。これらは弾力がありながらも柔らかく、軽いのが特徴で、漆器の材料としては最適です。

 3.琉球独自の技法を生み出した

琉球漆器の技法は中国から学び、琉球独自のものを生み出し、現代にも伝わっています。様々な技法がありますが、それぞれ特徴があり、代表的なものは以下の4つです。

沈金(ちんきん)

細く溝を彫り、金箔等を埋め込む技法

螺鈿(らでん)

夜光貝やアワビを使用し、薄く研ぎ、漆の表面に貼り付ける技法

箔絵(はくえ)

漆で絵を描き、その上に金箔や銀箔などを貼り乾燥後、余分な箔を取り除く技法

堆錦(ついきん)

漆と顔料などを練り合わせ、粘土のように薄くのばし、模様に合わせて切り抜き、着色して器に貼り付けて仕上げる技法。

こちらは、1715年琉球独自で生み出した技法で、現代でも琉球漆器屋さんでは、人気商品のひとつ。とくに、沖縄の特産品をモチーフにしたハイビスカス・ゴーヤー・月桃の花柄の漆器は、観光客からも人気があるデザインです。

このように、自然環境や技法開発から、独自の琉球漆器が誕生しました。

 世界が魅了する伝統工芸品に発展した理由とは!?

なぜ、ここまで琉球漆器が発展し続けたのか。もちろん、材料や環境がよかったのもありますが、技術が磨かれ常に新しいものを制作する姿が垣間見ることができますね。

発展し続けた理由の一つに、ある歴史が関係しています。

沖縄県になる前の琉球王国時代。アジアの多くの国々では、中国と冊封関係にありました。当時の使節団は約500人半年ほど琉球に滞在。使節団滞在中は、琉球料理や琉球舞踊などで、おもてなしをしていました。この際に、使用されていた器は、琉球漆器や今でも使われている『東道盆(トゥンダーブン)』です。

提供:©Okinawa Convention&Visitors Bureau

このように、他国のおもてなし際の器や、貿易品とされていた琉球漆器は当時、とても貴重なものでした。

その後琉球が薩摩の支配下となる中で、薩摩藩は当時の琉球の王様や役人を薩摩へ連行しましたが、薩摩から琉球に帰る際に『15の条件を守るなら、琉球に帰国してよい』との許しがくだされ、王様は無事帰国。

その帰国条件の中に「年貢を納める」、「江戸上りをする」などが含まれていました。
この江戸上りとは、琉球から薩摩(日本)に行くことで、薩摩の将軍のお祝いや、琉球王の即位に感謝するという意図があり、もちろん手ぶらではなく、たくさんの品を献上しています。

薩摩の支配下は260年続き、18回あった江戸上りの際、献上した品々は・・・!

【中国製織物200点・琉球産織物1,634点・琉球漆器46点・泡盛酒60個】(※1)

さらに別項目では、上記に加えて壺を160点運んだとの記録がありました。

当時からすると、とても大変だったことが想像できますね。

この歴史がきっかけで琉球漆器は、首里王府の管理下となり、漆器製作所として【貝摺奉行所(かいずりぶぎょうしょ)】がもうけられました。
1つの漆器に対して誰に贈る品か、どのようなデザインでどんな材料を使用したなど、事細かに記載された書物も現在に残っています。このような歴史背景により、漆器生産に力を入れ、さらなる発展をとげていったことがわかります。

献上品のほかには、お世話になった方へのお礼の品として贈られていたこともわかりました。特に薩摩に連行された当時の王様・尚寧王(しょうねいおう)から、京都にあるお寺の住職宛に送られた漆器が多数確認されています。

歴史からみる琉球漆器は奥深いですね。続いて食事で使われていた漆器をみてみると、宮廷料理の器「東道盆」があります。こちらも詳しく見てみましょう。

 東道盆(トゥンダーブン)とは!?

東道盆とは、「盆」と名がついていますが、現代で使用されているお盆とは異なり、料理が入るように内側に仕切りがある【漆塗りの蓋付きの器】です。主に足つきの高いタイプもあり、形は丸形、長方形などがあります。

「東道」とは、中国の書物「東道の主」からの由来で、【主人となり賓客をおもてなすこと】を意味します。
一般庶民が使用していたものではなく、中国からの使節団や、薩摩の役人など海外からの大切なお客さんのおもてなしの際や、中国・日本(大和)への献上品、裕福層のお祝い時などに使用されていました。

また、東道盆に盛られる料理のことも『東道盆』とよびます。

©Okinawa Convention&Visitors Bureau
©Okinawa Convention&Visitors Bureau

料理内容は、真ん中に「花イカ」からはじまり、「ミヌダル」・「魚の天ぷら」・「島菜入りかまぼこ」・「田芋のからあげ」・「しし(肉)かまぼこ」・「豚のゴボウ巻き」などがあります。

蒸し料理、揚げ物、煮物と調理法も工夫されています。
栄養学的にみると、「豚肉」のビタミンB1は疲労回復、「ゴボウ」は血糖値の急上昇を抑え、腸内環境を整える食物繊維、「島菜」はβ―カロテンなどメニューもバランスよく、来客へのおもてなしを感じますね。

このように、14世紀からつくり続けられている沖縄の工芸品。歴史と共に現在にあります。次世代に、さらにその次世代へと伝統が続いてほしい。そんな気持ちでコラムを書きました。
沖縄に訪れた際には、ぜひ琉球漆器を楽しんでみてくださいね!

最後までお読みいただきありがとうございました。


こちらのコラム『沖縄の食文化・琉球料理の特徴と料理紹介』も合わせてご覧ください♪

沖縄伝統工芸品のひとつ『壺屋焼(やちむん)』に関するコラムはこちらをご覧ください。

琉球漆器を器にした『沖縄伝統菓子チンビン』のレシピはこちらをご覧ください。


▼参考文献

(※1)プレゼンスとしての琉球産漆芸品について 園原謙
沖縄県立博物館・美術館博物館紀要. (5) 

(※2)琉球の漆芸文化
https://oki-park.jp/sp/shurijo/3499/3811

沖縄料理研究家・管理栄養士 宮澤かおるさん

関東と沖縄の両拠点で、「ぬちぐすい(食は命の薬)」をモットーに沖縄の食文化や沖縄食材を広める活動中。管理栄養士として、ジュニアアスリートの栄養カウンセリング、料理教室・大学での助手、病院栄養士(内分泌系栄養指導等)、食のコンサルティング会社(TV番組料理アシスタント、商品開発、腎臓病サイト監修等)を経験され、幅広い栄養管理の知見・実績を積む。沖縄県認定・琉球料理伝承人。

沖縄の先代が大切にしてきた食文化、沖縄島野菜、琉球王国時代の食を次世代に伝える!という想いで関東初の沖縄料理研究家として活動中です!
沖縄県内ホテル食部門アドバイザー、泡盛メーカーコラム担当、全国紙沖縄料理特集担当、沖縄食材トークショー、TV出演 等

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