梅雨が育む日本の食風景【梅、イワシ】 ~食の知恵で体調を整える ~

シトシト降る雨に、どんよりとした雲が一面に広がる空。

水気を含んだ重たい空気がそこいら中を取り巻き、肌寒さと蒸し暑さが交互に訪れるようなこの時期。天候が不安定で落ち着かず、なにかと気分も沈みがちになりますね。

私たちが住む日本では、5月~7月頃にかけてのこんな独特な気候の季節を「梅雨(つゆ)」と呼びます。「梅雨」というのはもともと中国から来たことばですが、じつはこの梅雨、日本だけのものではなく、東アジアの広い範囲にみられる特有の現象です。

逆に言うと、この梅雨のような特徴的な気象状況はヨーロッパなどにはみられないことなので、昔から梅雨は、日本人の食生活にとっても特別な風情のあるものとされてきました。

今回は、このうっかりすると憂鬱な気分だけで終わってしまいそうな梅雨という季節に着目しながら、むしろそれを大いに楽しむ!という気持ちで、私たちに身近な美味しい食べ物のお話をしていければと思います。

そこには、まさにこの季節にしか味わえない意外な食の楽しみが隠されているかもしれませんよ。

 ひと雨ごとにふくらむ梅の実
梅、イワシ、しそ ~ 梅雨が育む日本の食風景写真1

梅雨時というと、すぐに思い浮かぶ食べ物のひとつに「梅」があります。なんといっても「梅の雨」と書くくらいですから、その関連性の深さはもはや疑いようがありません。

そもそもなぜこの雨の多い季節をそんな名前で呼ぶようになったのかについては、じつにさまざまな説があります。なかでもやはり説得力がありそうなのは、この時期がまさに「梅の実が熟す季節」だから、というものです。

梅雨の時期に入ることを、「梅雨入り」、あるいは「入梅(にゅうばい)」と言います。これは春の季節が終わり、夏の始まり(初夏)を迎えることを意味します。一見すると、雨の多い季節というのは少し厄介で面倒なようにも思えるのですが、言うまでもなく、作物の生長にとってはまさしく恵みの雨となるのです。

昔から、梅雨入りを迎える日がいつになるかというのは、農家が田植えの時期を決める上でとても大切な目安になるとされてきました。今では品種改良が進み、比較的早い時期から田んぼで苗を育てることが可能になりましたが、かつてはこの梅雨のさなかに稲の植え付けがされていたのですね。

そんなわけで、この時期に降る雨は、梅の実にとってもとてもありがたいものでした。たわわに実った青梅は、ひと雨ごとにその大きさとふくらみを増し、やがては色づいて芳醇な香りを放つ完熟梅へと育ってゆくからです。

梅雨が育む日本の食風景コラム-色づく梅

時期によって、その硬さや甘み、香り、肉質を変えてゆく梅。そんな梅の実は、梅干しや梅酢、梅酒、梅ジュースなど、さまざまな食の楽しみを私たちにもたらしてくれます。

少しだけ手間はかかるけれど、季節の移り変わりや自然の恵みのありがたさを肌で感じられる、この時期の「梅しごと」。コロコロと丸く、甘くさわやかに香る梅の実に触れているだけでも、なんだか時間がゆっくりと流れ、心や癒やされてゆくような気がしますね。

最近では少量からでも作れるキットや、冷凍庫や炊飯器などを活用して作る手軽なレシピまでさまざまなものがありますので、この鬱々とした梅雨の時期のひとつの楽しみとして、まずは気軽な気持ちで始めてみるのも楽しいかもしれません。

 “梅雨の水を飲んだ” 入梅イワシ

そしてまた、梅雨時の雨は、陸だけでなく海にも大きな恵みをもたらしてくれます。海の幸の中でも特に「梅」と関連が深いのが、ご存知イワシという魚です。

イワシといえば、すぐに思い浮かぶ料理の一つに梅煮というものがあります。それに、梅肉や大葉をはさんで揚げた梅しそ揚げなども美味しいですよね。とにかく、なにかと「梅」とは縁が深い魚、それがイワシです。

といのも、このイワシ、じつは一年の中でも産卵を控えて最も脂が乗って美味しくなるのがこの梅雨の時期だと言われています。なかでもこの時期のマイワシは、特別に「入梅イワシ」と呼ばれ、日本全国の漁師さんたちが選ぶ本当に美味しい魚を紹介した「プライドフィッシュ」プロジェクトでも千葉県銚子の名産品に認定されているほどです。

●参考URL「銚子の入梅イワシ」
https://www.pride-fish.jp/JPF/pref/detail.php?pk=1401070138

銚子は海の潮の流れがぶつかり合う好漁場であるだけでなく、利根川からの淡水も注ぎ込む、年間を通じてプランクトンが豊富な場所です。しかもこの梅雨の時期には山に降った多量の雨が川となり、豊かな栄養分を含んで海へと流れ込みます。

そんな栄養豊富な餌を食べて育った「入梅イワシ」は「梅雨の水を飲んだ」魚と言われ、身が白っぽく見えるほどに脂が乗っていて、刺身でも塩焼きでも煮付けでも、どんな料理にしても美味しくいただけるのだそうです。そんな素晴らしい海の幸を味わえるのもまた、まさしくこの梅雨という季節のおかげなのですね。

 食の知恵で体調を整える

さて、「梅雨」ということばから連想される梅やイワシのほかにも、梅雨時に食べて特に美味しいと感じられる食べ物はたくさんあります。

しかも旬というのは本当によくできたもので、栄養面から考えても、この時期ならではのそんな食べ物を口にすることにはさまざまなメリットがあるのです。

たとえば、梅の酸味のなかに含まれるクエン酸には、胃腸の働きを良くしたり、体内の疲労物質を排出する効果があると言われています。また、体に良いとされる青魚のイワシには、よく知られた脳の活性化を促すDHAや血中コレステロール値を下げるEPAといった必須脂肪酸以外に、カルシウムの吸収を高めてくれるビタミンDなども多く含まれています。

梅雨というのは、寒暖差も激しく、とにかく心身が共に疲れやすくなる時期。日照時間が短くなることもあるので、通常、日光によって生成がなされるビタミンDのような栄養素はぜひ食べ物からも積極的に摂っていきたいところです。

そのほか、梅干し作りに欠かせない「赤じそ」や「青じそ」、「みょうが」、「しょうが」、「ねぎ」といった薬味も、蒸し暑さや曇りがちなお天気などで失われがちになる食欲を増進させてくれますよね。衛生面からみても、食品がカビたり腐敗しやすくなったりする時期なので、こうした薬味や酢などを使った料理は重宝されます。

「梅雨」というと、ともすれば少し憂鬱な気分になってしまうこともある季節。けれどこうしてみていくと、じつはこの時期にしか味わえない旬の美味しさや、古くからの食の知恵が私たちの食卓を今も支えてくれていることがわかります。

この梅雨の後にはいよいよ強い陽射しの照りつける暑い夏が待っています。そんな夏を前に、美味しくて値段も手頃、そして栄養価の高い旬の食べものをいただきながら、しっかり体調を整えて、ぜひ楽しい夏を迎えたいものですね!

おすすめレシピ『ハトムギとたたき長芋の鶏だし梅スープ』

体のめぐりを良くして心もどこかホッとできる、そんなやさしい味わいの具だくさんスープはいかがでしょうか。余熱でしっとり火を入れたヘルシーな鶏ささみは、スープにも良いお出汁が出るので食欲のない時にうってつけ。お試しください。

料理/食文化研究家・庭乃桃さん

料理/食文化研究家・庭乃桃さんMeal Partner_Food Culture Researcher

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大学院でヨーロッパ地域の歴史・文化を専攻し、現地へ留学。
企業向けレシピの開発やスタイリング・撮影を手がけるほか、書籍・コラムの執筆や、翻訳、講演など多方面で活動中。

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