りんごの季節
「秋冬は、リンゴの季節です。」
といっても、リンゴといえばいまや一年を通して店頭で見かける果物ですので、あまり旬というものを意識したことがないという方も少なくはないかもしれません。
見た目も味わいも、じつにたくさんの種類があるりんご。その多くは秋冬の時期に旬を迎え、美味しくなっていきます。
小ぶりでおいしい農家のりんご
ヨーロッパでも、りんごはとても身近な、古くから親しまれてきた果物です。
なんといっても、あの聖書のアダムとイブのりんごの逸話があるくらいです。果物といえばりんご、りんごといえば果物の代表、そんなイメージさえあるかもしれません。
そんなヨーロッパのりんごですが、日本のものよりはいくらか小ぶりなサイズのものが多いように思われます。思い出されるのは留学していた当時、寒さの厳しくなってきた秋の終わりに友達にもらったかわいらしいサイズのりんご。それがなんとも美味しくて、ひどく驚いた覚えがあります。
なんでもその日の朝、大学に来る前に、農家の方が庭先で売っていたもぎたてのりんごを買い求めたのだとか。
「すごく美味しいのよ。ひとつ食べてみない?」
正直、それまではりんごという果物にそれほど情熱を感じたことはなかったのですが、なぜかこの時は「農家のりんご」というフレーズに惹かれて思わず頷いてしまいました。
実際、ひとつかじってみると、そのなんとも美味しいこと…!
シャキッとした小気味よい歯ざわりに、甘みと酸味が絶妙のバランスで混ざり合う果肉。なんだか皮までいい匂いで、思わず小さなそのひとつをその場で全部いただいてしまいました。
思えば、それはその日の彼女のおやつだったのだと思います。それを少しお裾分けしてくれたのです。ヨーロッパの人は、外出時によくこうした果物をいくつか持参して、街中のトラム(路面電車)だったり、長距離移動の列車だったり、はたまたこうした大学の授業の合間などに取り出して丸かじりしては小腹を満たします。
春なら『いちご』、夏なら皮ごと(さらには種ごと)の『ぶどう』や『さくらんぼ』、といった具合に。そして秋冬には欠かせない果物、それこそが、この『りんご』です。
寒さを乗り切るりんごの飲み物
そもそもヨーロッパでは、寒さの厳しい秋冬の時期に美味しく食べられる果物というのはそう多くはありません。もちろん、今ではスーパーマーケットなどに行けば輸入ものの果物が並んでいますし、困ることはないのですが、それでもその季節ならではの旬の味わいを楽しみたいなら、やはりこの時期はりんごを選ぶことになります。
なんといっても、りんごはほかの果物に比べると日もちがします。冬のヨーロッパは湿度が低く、乾燥した所が多いので、山ほどのりんごを箱に入れてまとめておいてもそうひどく傷むものではありません。それにもともとが冷涼な気候のほうが育ちやすい作物なので、寒い土地でも比較的収穫がしやすいのです(日本でも青森県や長野県が一大産地として有名ですよね)。
ですから、果物の品揃えが乏しくなる寒い時期のりんごは格別の意味を持っています。真冬でもフレッシュな果肉を楽しめる喜びはもちろんですが、たとえば朝早くに足を運んだ市場で売られている搾りたてりんごを温めたジュースなどは、冷えた体にしみわたる美味しさです。
年末に賑わうクリスマス市でも、りんごはアルコール入りの飲み物に姿を変えて登場します。スパイスやフルーツを加えた定番のホットワインと並んで人気なのは、蒸留酒とりんごジュースをベースにしたカクテル。体が温まるので、冷え込む時期にはうってつけです。
りんごを使ったこうした温かい飲みものを口にするようになると、ヨーロッパでもいよいよ長く厳しい本格的な冬の訪れを感じることになります。鬱々と広がる暗い曇り空の下、りんごの甘みと芳醇な香りは冷え切った心と身体を癒やし、ほっとできるひと時をもたらしてくれるのです。
「黄金のりんご」、「大地のりんご」
さて、秋冬にありがたいそんなりんごという果物は、ヨーロッパの長い歴史のなかでもさまざまな形で引き合いに出されてきました。それくらい、人々に愛され親しまれてきたのです。
たとえば、先ほどの聖書の「禁断の果実」の物語。それにあの「白雪姫」にも毒りんごが登場しますよね。そういえば、アイザック・ニュートンが「万有引力の法則」を発見したのも、このりんごがきっかけでした。
赤くて丸くて、かわいらしい形。そのまま食べても果汁を搾っても美味しいですし、料理やお菓子作りに使えば使い勝手がよくて実用的です。有名なフランスの『シードル』や『カルヴァドス』のように、りんごを原料にすれば、美味しいお酒まで造れてしまいます。
そんな万能さ、親しみやすさからか、古くからヨーロッパでは、外から見知らぬ植物が入ってきた時にはさしあたりこのりんごの名前をあてて呼ぶということをよくしていました。
たとえば、なすやトマトなら「黄金のりんご」。そしてじゃがいもなら、「大地のりんご」といった具合です。イタリアでは今でもトマトのことを「ポモドーロ」(「黄金のりんご」の意)と言いますし、フランスやドイツでは、じゃがいものことを「ポム・ド・テール」や「エルトアプフェル」(ともに、「大地のりんご」の意)などと呼んでいます。
実際、栄養面からみても、秋冬の食卓に欠かすことのできないりんごは、「りんごが赤くなると医者が青くなる」、「1日1個のりんごで医者知らず」ということわざがあるくらいの優秀な果物。
見た目がかわいらしく、いつもそこにある親しみやすい存在感。そして、甘みにも塩味にも合う万能な味わいは、食後のデザートやスイーツはもちろん、料理に使ってもそのひと皿を最高に美味しくしてくれます。
それがひときわ美味しく楽しめるのが、まさにこの季節。ぜひ皆さんも、さまざまなりんごを食べ比べながら旬の味わいを楽しんでみてくださいね。そして時には、あのヨーロッパの小さなりんごのことも、思い出してみてください。
りんごをつかった欧州家庭料理レシピ<タルト・フランベ>
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