光のクリスマス、花火で迎える新年【料理/食文化研究家コラム】

 クリスマスと新年

 Merry Christmas  &  Happy New Year! 

皆さんは、カードに書かれたこんな言葉を目にされたことはありませんか?

そう、これはこの時期の定番の文句です。年末、日本で「よいお年を!」と声を掛け合うかわりに、欧米ではこんな風に、クリスマスと新年を一緒にメッセージに込めるのですよね。

英語以外の原語を使う国々でも、同じような表現がたくさんされています。最近ではキリスト教徒以外の人々にも配慮しようとさまざまな言い方がされるようにもなってきましたが、それでも定番はやはりこの言葉です。

じつは、これにはいくつかの理由があります。まずひとつは、言うまでもなくヨーロッパの人々にとっては、私たち日本人以上にクリスマスがとても大切で、かつ楽しいイベントだということ。
そしてもうひとつは、クリスマスと新年の訪れが、日本とはまたまったくちがった雰囲気を持つものだからです。

 光あふれるクリスマス

ヨーロッパでは、11月の末にもなると各街の広場で『クリスマス市』というのが始まります。これはだいたい一番鬱々とした、曇り空の続く寒い季節におこなわれるので、みんながとても楽しみにしているイベントです。

体を温めてくれるホットドリンクやお酒、美味しい食べ物、そして地元の産物や工芸品など、さまざまな店が軒を連ねるなか、浮かびあがる店々のあたたかな明かり――。

クリスマス市はたいてい寒空の下、石畳の広場などでおこなわれることが多いもの。ですから、まるで星々を模したように灯されているそんな光を見ているだけでも、イエス・キリストの誕生を祝うクリスマスというイベントに対する人々の愛着や、その日を待ち望む喜びやうれしさというものが、じんわりとこちらに伝わってきます。

そんなクリスマス市は、『アドヴェント(待降節)』と呼ばれる期間に始まり、たいていは12月23日の夜には終わりを迎えます。アドヴェントはその名前の通り、「イエス・キリストの生誕を待ちわびる期間」のこと。クリスマスまでの一日一日を指折り数えながら火を灯していくアドヴェンツクランツや、毎日ひとつずつ小窓を開け、なかのお菓子を取り出して楽しむアドヴェンツカレンダーなどは、日本でも最近ずいぶんと人気になってきました。

アドヴェンツクランツ
アドヴェンツカレンダー

そして迎える、クリスマス当日――。

それまでの楽しく賑やかな、ウキウキした雰囲気とはうって変わり、街は静寂に包まれます。日付の変わる午前〇時には、キリストの誕生を祝って教会の鐘が盛大に打ち鳴らされ、その後は年明けまでみんなが静かに大切な家族との時間を過ごすのです。

 年越しは花火とともに

さて、クリスマス以降は比較的静かな日々を過ごすことになるとはいっても、やはり年越しのその瞬間だけは、ヨーロッパもある特別な雰囲気に包まれます。

日本では年越しの瞬間が近づくと、自宅でゆっくりと過ごす人、寺社などに初詣に赴く人、オーケストラの年越しコンサートに参加する人、友人と賑やかに集まる人などさまざまな光景が目にされますよね。それがヨーロッパですと、そのなかに花火をあげに行くという楽しみ方が含まれるようになります。

というのも年越しは、花火や爆竹をあげてもよいとされている貴重な機会でもあるのです。有名な河川などは、そのうってつけの会場のひとつ。まるで日本の夏祭りの花火大会のように、大々的に人を集めて開催される場合もありますが、個々人がスーパーマーケットなどで購入してきた花火を手に、思い思いに火をつけて賑やかに騒ぐ場合も多くあります。

そんな会場には、だいたいはお酒が入った人々が押しかけるため、喧噪や嬌声に包まれているのがあたりまえ。年越しの瞬間にはひときわ大きな歓声と爆竹が鳴り響き、家族や友人とハグをし合ったり、恋人同士でキスを交わしたりと、その特別なひとときを思い思いに楽しみます。

そういった意味では、ヨーロッパでの花火は日本とはちがい、冬のイメージのほうが強いのかもしれません。それはまさしく、「新年をともに祝う」ための花火なのです。

 クリスマスシーズンは1月6日まで

さて日本では、クリスマスが終わると一気にお正月モードへと切り替わります。お店にはおせち料理の材料が並び、お正月用の花やしめ飾りなどを買い求める人手も増えますね。

しかしヨーロッパでは、じつはクリスマスシーズンは年の明けた1月6日までずっと続きます。その証拠に、それまで飾ってあったクリスマスツリーが片付けられるのが、まさにこの日。朝になると、家々の戸口の前にはツリーが並んでいて、それを回収する車が街中をまわります。

この1月6日というのは、キリスト教の暦のなかでは『公現節(エピファニー)』と呼ばれる日にあたります。その名の通り、「イエス・キリストが初めて公に姿を現した日」。つまりは聖書のなかで、ベツレヘムでのイエス・キリストの誕生を知った東方三博士が、黄金・乳香、没薬(もつやく)を持ってお祝いに駆けつけたのがまさしくこの日です。

Photo by Steph Gray le 15 janvier 2011 (CC BY-Sa 2.0) – Galette des rois avec couronne

たとえばこの日に食べることで有名なお菓子に、フランスの【ガレット・デ・ロワ】というものがあります。地域によって作り方や味わいは少しちがいますが、サクサクしたパイ生地のなかにアーモンドクリームなどが入った、(最近では日本のパン屋さんなどでも時折見かける)あのお菓子です。

ガレット・デ・ロワというのは、いわば「諸王のお菓子」というような意味。ここでの王とは、東方三博士たちのことです。ガレット・デ・ロワにはよく、紙で作られた王冠がのせられていることがありますが、それもここから来ています。

フランスなどのいくつかの地域では、このお菓子を1月6日に切り分けて、なかに入れられた「フェーヴ」と呼ばれる陶製の小さな人形を引き当てた人に、その年一年の幸運が訪れると言われています。ヨーロッパでは、年が明け、お正月三が日におせち料理を食べるといった習慣がないので、こんなふうに新年の幕開けを祝っているのですね。こんなところにも、古くからのヨーロッパの食の楽しみは息づき、そして現代日本で暮らす私たちにまでその楽しみをもたらしてくれています。

最近はさまざまなお店でこのお菓子が見かけられるようになりましたので、今年はぜひ皆さんも、1月6日にはガレット・デ・ロワを大切な方たちと召し上がってみてください。運よくフェーヴを引き当てることができたら、来年はとても素敵な一年になるかもしれませんよ。

来年が皆さまにとって、より一層の素晴らしい年となりますように!

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料理/食文化研究家・庭乃桃さん

料理/食文化研究家・庭乃桃さんMeal Partner_Food Culture Researcher

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大学院でヨーロッパ地域の歴史・文化を専攻し、現地へ留学。
企業向けレシピの開発やスタイリング・撮影を手がけるほか、書籍・コラムの執筆や、翻訳、講演など多方面で活動中。

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