-2021年8月に開催された「全日本高校生WASHOKUグランプリ2021 決勝大会」で最高賞のグランプリを獲得した沖縄県立浦添工業高等学校・調理科3年上運天里華さんと古謝一歌さんの『ニライカナイ』チーム-
2年ぶりの開催となった全日本高校生WASHOKUグランプリ2021。「出汁を使った和食」をテーマに、全国の高校より和食の腕前を競う110チームが応募。一次審査を6チームが通過し、石川県金沢市の金沢未来のまち創造館で決勝大会が行われました。決勝では、「調理」・「プレゼンテーション」の最終審査の結果、沖縄県立浦添工業高等学校(以下:浦添工業)ニライカナイチームの料理作品『万国津梁-世界の架け橋-』がグランプリに輝きました。
日本の食文化である「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、健康志向と相まって世界に広がりを見せる中、世界を舞台に次代の和食文化を担っていく若者たちを発掘し、その成長を支援する「全日本高校生WASHOKUグランプリ」。和食×琉球料理の融合で、見事最高賞を獲得した浦添工業の『ニライカナイ』チームに、全日本高校生WASHOKUグランプリにまつわるエピソード、料理作品『万国津梁』への想いや料理のポイント、そして今後の夢までインタビューさせていただきました。
インタビュアー:TVレポーター・ラジオパーソナリティーや多くのイベント司会等を務める『玉城乃野』さん
*インタビュー内容*
全日本高校生WASHOKUグランプリ参加に関して
全日本高校生WASHOKUグランプリ2021の最優秀賞であるグランプリおめでとうございます!!
目標をたてて挑戦する姿、素晴らしいと感じました。グランプリを獲得した際の気持ちはどうでしたか?
古謝一歌:最初は驚きましたが、全国大会に出場して自分の実績となったので、良かったと思います。
上運天里華:先輩が前回大会(全日本高校生WASHOKUグランプリ2019)に出場されているのを見て、憧れて挑戦しました。グランプリを獲得した時に、先輩に「獲りました」と報告したのと、お世話になった先生方に「ありがとうございました」とすぐに感謝の気持ちが出てきました。
少しさかのぼりますが、約110チームの応募があった書類審査の通過連絡を受けた際、お気持ちはどうでしたか?
通るとは思っていなかったです。応募者も多く、提出した料理の色もあまり満足できる綺麗さではありませんでした。
決勝大会の石川県・金沢の地に行き、決勝大会には6チームが出場されていましたが、他チームや雰囲気はどうでしたか?
相可高校(三重県立相可高等学校)がかっこよかったです。雰囲気の圧がすごいと感じました。
下地佑季教諭:相可高校さんは日本有数の調理科で、実践教育施設の「まごの店」などで実習経験が豊富で、今回は決勝大会に2チーム参加されていました。
緊迫した雰囲気だったと思います。大会でつながったご縁は、今後の料理家としての活動で活かせると良いですね。お二人の『ニライカナイ』というチーム名や『万国津梁(世界への架け橋)』という料理テーマ・作品タイトルなどはどのように決められたのですか?
<ニライカナイ> ニライカナイとは、琉球諸島に伝わる海の彼方にある神の世界です。聖者の魂は、ニライカナイにかえり、死者の魂はニライカナイにかえると考えられています。琉球では、死後七代にして、死者の魂は「親族の守護神」になるという先祖崇拝の考えが信仰されています。時にはご先祖様と「心身一体」となって世代の変化をともに乗り越えていきます。(プレゼンテーション審査より)
『万国津梁』の料理は、調理科の担任の先生と話をしながら、レシピなどを決めたのですが、万国津梁に関しては、首里城にある鐘(万国津梁の鐘)の中に万国津梁という文字があり、世界への発信という意味で、私達が今回作りたい料理が沖縄の琉球料理・日本料理を世界に発信するコンセプトで作ったので、「万国津梁」が良いと思いつけました。
メニューを決める際に、ひとつひとつ沖縄食材のことを意識して作られていますが、二人が中心に決められたのですか?
担任の先生と外部の先生に教えて頂きながら作りました。「私達の舌に合うような味付けと、審査員の先生方の年代の方が好む味付けが違う」とアドバイスをもらいながら料理に向きあいました。
<指導・サポート> ◇調理・盛り付け指導:同校調理科の日本料理を担当するカフーリゾートフチャクコンド・ホテルの総料理長・安多榮良さん(同校卒業生) ◇食器の選択や琉球漆器の貸し出し;ザ・ブセナテラスの調理グループチームリーダー・銘苅健勇さん
食べてもらう人をイメージしながら、味付けまでこだわったのですね。
メニュー名も「詩」のようで素敵です。例えば、出汁料理がテーマの中で、琉球すっぽんを使った「琉球すっぽん汁」料理があったかと思います。「夜空を見上げるすっぽん」の表現はとても素敵でした。どこから発想したのですか?
「月とすっぽん」ということわざからのイメージや、調理していく過程で、最初はすっぽん汁の上にうずらの卵を置いてみましたが、見栄えがしなかったので、和食の先生から、≪べっこう漬け≫の方法を教わりました。べっこう漬けは、西京味噌に砂糖と日本酒を混ぜて、うずらの卵の黄身だけを使う方法で調理しました。
書類選考での選考後~グランプリ決勝大会までの間、練習を重ねたことを本番で表現できましたか?
100点満点中100点です(笑)
決勝大会の調理時間は60分でしたが、時間内に思い通り調理できましたか?
上運天里華:(一歌と)普段の学校の調理現場と同じように、「あと何分だよ、次これ調理するね」などの掛け声や会話ができ、まわりを気にせず調理審査にのぞめました。
この数か月間、二人のコンビを振り返ってみてどうでしたか?
上運天里華:(一歌には)感謝しかありません。なんでもこなせるし、頼れるし、信頼できる仲です。
古謝一歌:(里華は)調べる事ややるべき事をしっかりやってくれる。私がやらないことをやってくるから凄いと思います。
決勝大会が近づくにつれ、グランプリを獲るつもりで臨んでいったのですか?
行くなら、グランプリを獲る!という気持ちでした。
2年前のWASHOKUグランプリに参加した先輩からは「練習と現場は全然空気が違うから、絶対気を緩めないで」とアドバイスをもらいました。
ー同校では、全日本高校生WASHOKUグランプリ2019 にも応募され、チーム名:琉球Boys(崎山修平さん、比嘉雄也さん)が決勝大会に進み、料理作品『美ら島 〜Ryukyu Island~』で審査員特別賞を受賞ー
決勝大会の調理・料理作品に関して
・沖縄天ぷら(魚と紅芋)
・ヌンクウ(沖縄風おでん)
・沖縄小鉢3種盛(人参シリ・ナーベーラーの酢味噌かけ・シークァーサーもずく酢)
・ジューシーの月桃包み<飯>
・琉球すっぽん汁<汁>
調理で工夫した点や審査員の方々に感じて欲しいポイント等は何でしたか?
メニューでは、『沖縄天ぷら(魚と紅芋)』の天ぷらの衣です。
通常沖縄の天ぷらのは、フリッターの様にモチモチしたり、油っぽく、分厚いものが多いですよね。
『沖縄天ぷら(魚と紅芋)』は、サクサク、フワッとする天ぷらを作りました。最初は、油を入れて「中国風の天ぷら」や、「琉球時代の宮廷料理の天ぷら」を作っていた。ただ、それだと今の沖縄には馴染みがないので、沖縄天ぷらとして、サクっとフワッっするように改良しました。
今回の応募作品テーマである「出汁を使った和食」として、日本食の和食、そして琉球料理を世界に発信するという二つを融合するために意識した点は何ですか?
「琉球すっぽん汁」が一番難しかったです。基本合わせ出汁で、こんぶとかつおだし。すっぽん自体の出汁と合わせるのにバランスが難しかった。すっぽん自体は臭みは強くなく、かつおだしを入れると風味が効きすぎてしまう。すっぽんの味を活かせるようしました。作っていく中で、味を覚え、決勝大会で再現しました。
下地佑季教諭:今回のすっぽんは、沖ハム(沖縄ハム総合食品株式会社)さんの琉球すっぽんを使わせていただきました。養殖現場で孵化の様子や泳いでいるところ等を視察させていただきました。
生きているすっぽんを仕入れて、捌きました。各部位に分けた後、60℃のお湯で皮をはぐ下処理をし、ボイルしました。
(自分達で捌くというたくましさ・・・!)
『ヌンクウ(沖縄風おでん)』メニューに関しても、沖縄の味・出汁を感じられるようにお豆腐なども工夫しました。
料理への想い・原点・これから
日頃、料理と向きあい切磋琢磨し、グランプリを獲得され今に至りますが、なぜ調理科に入り、料理人を志そうとしたのですか?
上運天里華:食べることが好き。料理することが想像しやすかった。将来の夢はと聞かれたら、「料理する人」と思っていた。(洋菓子店で勤める)お母さんの調理姿を見て難しくて手が出せないと思ったが、料理なら身近で、作って食べられる。小学校の時に人参シリシリから作りました。
古謝一歌:家族を見ると家系的に手に職をつけています。私も料理が好きで、調理師免許を取ることができる浦添工業高校の調理科を選びました。
家族に食べて喜んでもらえた料理などはありますか?
上運天里華:家族への料理は、”レバニラ炒め”が美味しいとよく喜んでもらえました。
古謝一歌:”じゃことあさりのおにぎり”です。学校でじゃこご飯を学び、あさりと混ぜたおにぎりを食べてもらい家族に喜んでもらいました。
好きな食材や料理で挑戦してみたいものはありますか?
古謝一歌:大きなイカやカワハギをさばきたいです!
上運天里華:色合いが青で鮮やかなバタフライピーが気になっています!
2年生の頃の担任で今回引率された下地先生から見て、2人はどういう生徒でしょうか。
下地佑季教諭:日頃から成績優秀で、授業態度も真面目で、非の打ち所がなく、自慢の2人です。
決勝大会当日のための食材購入で市場を回ったり、サンニン(月桃)の葉っぱを取りに行ったりしましたが、食材選びでも一切妥協がなく、今回の結果に結びついたのだと思います。常に食べてもらう人のことを考えている。
すっぽん汁を使った料理の時も、すっぽんの良さを知るために養殖場の現地まで行き下調べをしたり、紅芋は生では持ち出し禁止のため、ペースト状にして持ち込む際の色味の工夫、天ぷらも日本天ぷらと沖縄天ぷらの間で、「サクッ」と音がするまで試行錯誤して自分たちの配合を目指していた。すっぽん汁に関しては、プロの審査員からアドバイス頂いたことをずっとメモを取っていたので、更なる成長に繋がること、将来沖縄の料理界を担う・貢献してくれると信じています。
今後の二人の夢や、どんな道に進みたいか聞かせてもらって良いですか?
上運天里華:将来は管理栄養士になりたいと考えています。大学に進学し、管理栄養士になって、その後は医療の現場に進み、料理で病気の患者さんの治療や健康をサポートできる人になりたいです。
古謝一歌:私は、スポーツ関連の管理栄養士になりたいと考えています。選手の海外遠征などでは、日本の料理を食べられなくなるので、慣れ親しんだ味でメンタル面でもサポートできる管理栄養士になりたいです。
琉球料理や、これまで学んだことを活かし、これからの道で取り組んでみたいこと等はありますか?
上運天里華:出汁は体にも良いので、管理栄養士として、医療の食事でも活用したいです。あとはお菓子作りが好きでマカロンが得意なので、お菓子作りもしていきたいです。
古謝一歌:琉球料理について調べていく中で、琉球の宮廷料理を料理する「包丁人」を知り、包丁人は色々な国の料理を覚えて、もてなしをしていることを知りました。スポーツ選手個人個人の馴染みのある味を提供していけるような精神をもって努力していきたいと思います。
料理に興味がある方や、これから料理にたずさわるこども達にメッセージをお願いします。
上運天里華:料理は、料理を食べた時、作った人が今どういう気持ちや状況にあるのかがわかりやすい。味がしょっぱかったら「何かあったの?」等、料理を通して感情が分かると思っています。料理を通して、コミュニケーションを深められるかもしれないですね。
古謝一歌:料理は出来て困ることがないものだと思います。食材があって、何もできなければそのまま食べるしかないけど、料理が出来れば、毎回同じではなく違う料理を生みだすことができ、食べる楽しみも生まれます。料理が出来れば仕事の幅も広がると思います。
心身を育む上で、食はベースになるもの。一方で、料理は細かい調理作業の積み重ねでもあり、ついつい後回しになってしまいがちですが、妥協をしないで乗り越えるモチベーションは何ですか?
自分が作った料理を美味しいと食べてくれる人を頭で描いているので、楽しく、頑張れるのだと思います。
専門性を育む沖縄県立浦添工業高等学校
調理科に在籍し、お二人が育った御校について教えてください。
浦添工業高等学校には、●情報技術科、●インテリア科、●デザイン科、●調理科の4学科あり、それぞれ異なる領域のプロフェッショナルの生徒が育っています。手に職をつけるため、それぞれの高みを目指して日々のカリキュラムを学んでいます。
調理科に関しては、日本料理、西洋料理、中国料理、そして琉球料理も講師を招いて知識と技術を学んでもらっています。生徒自身に「やる気と意識」がないと続かない。そういう意味では、志しの高い生徒が集まっています。
全日本高校生WASHOKUグランプリ2019の時も志しの高い生徒がいて、それを引き継ぎ今回のグランプリ獲得に繋がり、そしてまたその背中を見て、下の学年の子達やこれから入学する中学生の方々にも刺激になったと感じています。今後も志しの高い学生が集まってもらえると期待しています。本校出身で、サポートしてくれる先生や講師の繋がりもあり、熱心に教えてもらえる環境になっています。
グランプリ獲得、改めておめでとうございます。これからの更なるご活躍を願っております。
全日本高校生WASHOKUグランプリ
◇全日本高校生WASHOKUグランプリ2021
公式ホームページ:http://gokan-gochisou-kanazawa.jp/washoku
■決勝大会の様子<Youtube> ※金沢市公式YouTubeチャンネルCityofKanazawa
◇全日本高校生WASHOKUグランプリ2019
公式ホームページ:http://gokan-gochisou-kanazawa.jp/washoku/gp2019
*審査員特別賞を受賞した浦添工業『琉球Boys』(崎山修平さん、比嘉雄也さん)の料理作品『美ら島 〜Ryukyu Islandkara~』はこちらからご覧頂ければと思います。
編集後記
この度は、インタビューにご協力頂き、誠にありがとうございました。お二人や浦添工業の先生方に話を伺い、「料理に対する情熱」、「食べてくれる方への想い」、「先生と生徒のあたたかい信頼関係」を感じ、校訓である「自律・協調・創造」を体現されていることをとても実感しました。全日本高校生WASHOKUグランプリの「高校生の熱き情熱で創造を高めあう」ことへの趣旨に沿い、2大会連続の決勝大会出場と今回グランプリという栄冠に輝いたこと、改めておめでとうございます。
<万国津梁>かつて海洋国家として栄えた琉球王国に想いを馳せ、他国との貿易・交流で栄えた気概を持った沖縄県として、利己主義から利他主義へ、国や世代を越え、琉球料理と和食をうまく融合し、多くの方への生活に定着させていきたい。と願うニライカナイチームの二人は、こらからも食を通じて「世界の架け橋に」なってくれると願っています。
ー『免疫力を高める和食文化の発信、そして、未来へ命をつなぐ架け橋となる』ー
料理専門家の技術と栄養の知識を武器に、世界の架け橋になっていただくことを祈念しています。
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